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衣類のシミヌキやクリーニングは、街のクリーニング屋さん。
では着物はというと、昔から「悉皆屋」という専門業者があります。
「扇屋」も、そうした悉皆屋さんのひとつ。
今回はケアからリフォームまで、様々な希望を実現してもらえる悉皆のお仕事と、仕事に対する思いをお話していただきました。 |
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◆「0」に戻す仕事 |
「私たちの仕事は、『0に戻す』ことなんです」
と扇屋の4代目、家田貴之さんはおっしゃいます。
たとえば、すっかり変色してしまった襟のケア。
地襟(和服の縁で、首の周りと胸のある部分に縫いつけた、細長い布の部分。上に掛け襟をつける)を掛け襟(襟の首の周りの汚れやすい部分を覆った布)に出すなど、さまざまな手法があります。
仕立て直してしまえば、どこをどう直したか、わかりません。
シミヌキにしてもそう。
シミを元通りに直して、跡形なくしてしまいます。
このように悉皆の仕事とは、直した「形」を残さない「0」に近づけるものなのです。 |
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きもの工房扇屋の作業室。
色とりどりの着物地が並ぶ。 |
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◆仕事の基本は観察と好奇心、そして経験 |
悉皆の仕事は、着物をすみずみまで観察することから始まります。
表、裏、裾、襟……すみずみまで目を光らせます。
すると、「どう直すのがベストか、何かがわかる」と家田さんはおっしゃいます。
そしてケア方法のあたりをつけて、ほんとうに適しているかどうか、シミヌキなどに使う薬品のテストも行います。
なかには危険な薬品もあり、処理の仕方を覚えることも大切。 |
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着物を見る、触れる、そして熟考する……
すべて重要と話す家田さん。 |
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また色を加える場合など、刷毛を使うか、筆か、ブラシか……。
いろいろな選択肢があります。
すべての作業には、「こうしたらよいのではないかという好奇心、そしてたくさんの経験が必要」だそうです。 |
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| ◆悉皆は、作品を作ることではない |
特に作家物の着物に接するとき、ときには数日間考え込むこともあるといいます。
「柄を足すときなど、その着物を描いた作家の心を考えるんです。
たとえばシミを隠すために、勝手に模様を加えるなんて安易にできません」
着物作家は机に座って、ほんの小さな範囲を凝視しながら描いていきます。
その小さな範囲と同じ目線、同じ思いを、家田さんは丹念にたどります。
すると、その絵柄を描いたときの刷毛の動き、力の加え方、抜き方、筆の入り方まで見えてくるそうです。 その気持ちを受け継いで、どういう方法が最善か考えていくのです。 |
ですから柄を足すのは、最終手段。
「着物作家からすれば、『勝手に足すな!』と思うでしょう(笑)?」
着物によっては、それを描いた作家がすでに亡くなっている場合もあります。
だからこそじっくりと観察し、考えることは重要だと家田さんは繰り返します。
「なぜならば、悉皆の仕事は作品を作ることではないんです。
着物という作品を作ったのは、着物作家。
私はその着物が元の美しい姿に戻るよう、手助けするのが仕事です」 |
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一級染色補正技能士であり、東京都知事賞をはじめ、数多くの受賞歴もある家田さん。 |
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◆着物は「人の思い」とともにある |
着物作家の思いと同じく、家田さんが大切にされているのが「お客様の思い」。
特に振袖の依頼品は、お客様の深い思いが感じられるものが多いそうです。
あるお客様は、おばあ様の振袖をお孫さんの成人式に着せたいと、60年以上も経た振袖を持ち込まれました。
そのすばらしい友禅の着物を元の美しさに戻すためには、全ての友禅を書き直すなど、大掛かりな作業が必要だったそうです。
作業は、実に2年にわたりました。
「しかしお客様もわかっていて、そういったご依頼は、早くから持ち込まれるんです。
しあがったときには私も感無量でしたが、お客様もほんとうに喜んでくださいました」
そのほか、お母様の着物を娘さんへという方も多く、なかには成人式の振袖を結婚式用の着物にリメイクしたこともあるとか。
そして、お客様は全国から扇屋を目指します。
北海道の方が、直接着物を持ってこられた例も。
「着物は大事な宝物として、母から娘へ、孫へと受け継がれます。
このとき着物という物だけではなく、幸せな記憶も受け継がれます。
そうしたお手伝いができるのが、ほんとうにうれしいですね」 |
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悉皆の仕事は、細かな作業が多い。「いくら時間がかかろうが、手を抜かないのが、基本中の基本です」。 |
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家のタンスの中に、眠ったままの着物はありませんか?
ときにはタンスから取り出して、家田さんのような悉皆屋さんにメンテナンスをお願いしてみてはいかがでしょう。
その着物との新しい思い出がつむがれて、さらに大切な一枚になりそうです。 |
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